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INTERVIEW:京都大学教授 三浦先生デザイン性や生業を極めて、誰もが訪れたくなる「垣根をなくした人と人が出会える場所」へ

ヨリドコ大正るつぼん ヨリドコ大正メイキン 僕らが考える福祉 空き家活用

細川 細川

今回は、建築計画のアプローチから高齢者福祉を研究されている京都大学教授の三浦先生にお話をうかがいました。

大正にある「三泉商店街」では学生らとともに商店街再生イベントにも携わっておられます。研究だけでなく、実践による高齢者のための住まいまちづくりを進めておられ、大正にも大変馴染みのある先生です。

聞き手/文
WeCompass 川幡祐子

 

高齢者が生き生きと活動できる地域づくり

川幡
川幡

「ヨリドコ大正るつぼん」では、

行政や従来の福祉事業所だけではカバーできないサービスを提供し、地域住民や専門家との相互扶助により自分たちでできることは助け合っていく仕組みを構築し、その拠点にしたいと考えています。

三浦先生が、全国の福祉施設を見られた中での現状や、今後の課題について、どのように感じておられますか?

介護政策において、地域に福祉施設や事業所が整備され、一通りのサービスが行き渡った感があります。

特に最近、変化が見られるのは、介護が必要な高齢者が通所施設でサービスを受けるだけでなく、地域の中で働くというフェーズが出てきたことです。

その先進事例として、東京都町田市のデイズB L G!という、認知症の高齢者のデイサービス施設での事例があります。

三浦先生
三浦先生

川幡
川幡

どのような内容なんでしょうか?

男性の利用者は、施設に行きおしゃべりをして過ごすことが得意ではないので、地域に出てビラ配りや車の洗浄などをしてわずかな報酬を得る、という活動に取り組んでいます。

施設内で閉じこもるより、サークルグループができあがり、地域の中で生き生きと過ごすことができているんです。

三浦先生
三浦先生

川幡
川幡

そういった活動があるんですね。

ですが、行政側は当初、このような活動に対して、

「介護サービスを受けている人が、外で働いて個人的に稼いでいいのか」と、反対をしました。

かつて、介護施設の花見は、敷地以外での場所で行ってはいけないと指導があったり、地域から切り離されていたんです。

そのようなこともあり、デイズB L G!は長年にわたり行政へ働きかけ、2017年、ようやく厚生労働省が、通所系高齢施設での地域活動を認めるようになった、という経緯があるんですよ。

三浦先生
三浦先生

川幡
川幡

なるほど。

ですが、

「雇用関係としてのその報酬は妥当か?」

「サービス提供に対する報酬となると、それは“労働”ではないか?」

など、労働者保護という点での問題も残されています。

また一方で、“労働”と位置づけてしまうほどではないが、完全な無償のボランティアにしてしまうと、責任が伴わなくなるので、高齢者にとってわずかな報酬を得ることには意味があり、生きがいにもつながっています。

通所介護の枠組みの中で、このような緩やかな活動をどう位置づけるのか、現状の法律では整理ができておらず、グレーな部分と言えます。

三浦先生
三浦先生

川幡
川幡

高齢者のための緩やかな活動をどう見守っていくのか、これからの課題なんですね。

また、“労働”となる境界ラインも曖昧のようですね。

そうです。

お金になるとわかると、民間事業者が単価の安い労働で業務を請負、高齢者から搾取するという危険性もあります。

しかしいずれにせよ、

介護が必要だったり、認知症でお世話が必要な高齢者が、地域で生き生きと暮らすには、サービスを受けるだけでなく主体的に地域に関わることが重要であり、そのような動きは全国で少しずつ始まっています。

それをどのように支えていけるのか、外との関わりをどのように持たせていくのかが重要な視点だと思います。

三浦先生
三浦先生

 

「戸建て住宅団地のスーパー跡地」に建設された春日台センターセンター(神奈川県愛川町)。高齢者介護を提供する小規模多機能やグループホームにくわえて、子どもたちの居場所としての学童保育、障がいの人が働くコインランドリーなどを複合した魅力的な地域の居場所として注目されている事例。「大正るつぼん」にも共通する考え方の地域拠点と言えます。

 

コインランドリーは、障がいのある方が働くおしゃれなスペース。ランドリーの前には縁側の役割を果たすベンチが設けられて、近所の人が買い物ついでに立ち寄る居場所として活用されています。

 

介護施設である小規模多機能の一角に設けられた駄菓子コーナー。認知症の高齢者がここで店番をすることで、生きがい、交流を生んでいる。

 

デザイン性やクオリティを極めたボーダレスな環境

川幡
川幡

今回、ヨリドコ大正るつぼんに参画される事業者さんとして、西成で重度障がい者のデイサービスなどを手掛けておられるナンクルナイサーケアネットさんが、障がい者はサービスを受けるだけでなく、提供する役割も果たしていく場が必要だという考えから、大正区で初めて「就労支援B型事業所」を開設されます。

はい、その事業者さんは知っています。

これからの福祉施設としては、地域内外からサービスを受けるために通う方だけではなく、そこに居住する高齢者や障害者を、施設の運営側がいろんな主体とつながりながらどうサポートしていくのか、つまり拠点としての役割が重要になってくると思います。

居住支援協議会に、まさにそうしたハブの機能が求められています。

セーフティネットを必要とする高齢者や障がい者が、地域で生き生きと暮らすためには、横つなぎのうまくいっている法人が、それぞれのニーズにあったサポートができますし、さらに彼らが地域で安心して働くためには、場所の確保だけでなく居住も含めた暮らしの総合的サポートが重要になってきます。

三浦先生
三浦先生

*住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子供を育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者)の民間賃貸住宅等への円滑な入居の促進を図るため、地方公共団体や関係業者、居住支援団体等が連携(住宅セーフティネット法第51条第1項)し、住宅確保要配慮者及び民間賃貸住宅の賃貸人の双方に対し、住宅情報の提供等の支援を実施するものです(国土交通省H Pより)。

川幡
川幡

その考え方はオルガワークスさん(この建物のオーナー)もお持ちで、ヨリドコ大正るつぼんの隣にあるシェアアトリエ「ヨリドコ大正メイキン」のクリエイターが、商品のパッケージのデザインをするなどしてサポートできればと考えておられるようです。

また、オルガワークスの小川さん、細川さんは、外部クリエイターとのつながりも深く、自らの会社の商品を企画製造していることから、商品開発のサポートもしていく意向があるそうです。

オルガワークスでは、障がい者事業所の栽培するハーブを使ったオーガニッククラフトコーラの製造・販売や、メンズ化粧品の製造・販売、ビックサイズの洋服の製造・販売も手掛けている。

最近、特に若い人たちの中には、障がい者の事業所での商品販売でも、流通やデザインのプロが関わり、世間でニーズがあるものを作り、真剣勝負する人たちが出てきています。

そうすると、買い手側も障がい者が作ったかどうかを意識しないで、センスが良いからという理由で買います。

地域拠点も同じで、場所がカッコよく、ワクワクするから、欲しいものがあるからという理由で来る人が、たまたまそこで働いている障がい者と出会う機会が生まれます。

デザイン性の高さや、商品のクオリティの良さ、その場所が魅力的だから、というきっかけがボーダレスな場を作る後押しになっていくと思います。

三浦先生
三浦先生

川幡
川幡

なるほど!

様々なきっかけがボーダレスな場を作るのですね。

 

共有しながら心地よく向き合える場所へ

例えば、

初デートに映画館やドライブが選ばれるのは、スクリーンや風景という共有物を介して、自然な感じで向き合えるからという理由があります。

福祉施設の利用者も、共通の「景色」や「美味しい料理」などを楽しみながらの向き合い方が本当は居心地がいいのに、一般の人と接する時、今の施設の中だけは真正面で面談のような状況になって居心地が悪く、緩やかな向き合いの手助けになるものがない。

認知症の高齢者の方だと、対面で接すると不安でしかなかったり話題がない中で会話を進めてもぎこちない関係になりがちです。

三浦先生
三浦先生

 

真正面の向き合い(左)は議論には適していますが、自然な形で居合わせるには、右のようなオープンに開いたなかに、モノ、行為、景色、第三者など豊かな手ごたえのある何かをシェアしたほうが向き合いやすい。商品、接客、サービスの共有が、自然な居合わせ方を作るのです。

 

川幡
川幡

確かに、相手との共通の話題がわからないまま何か話せと言われたら、私も辛いです。

認知症の高齢者ならなおさらでしょうね。

人と人とが向き合い、人間関係を促進する状態を「ソシオペタル」と言い、反対にお互いにそっぽを向いて背中合わせの状態はソシオフーガルと言います。

福祉施設の中だけで人と出会う場合、気の毒な方だからお世話する・されるという向き合いになるが、お店に障がい者が立って接客したり、商品やサービスを共有しながら、一般の人と向き合う時、自然なソシオペタルの状況を作りやすくしていると思います。

三浦先生
三浦先生

川幡
川幡

お店だと品物やサービスを介して話ができますし、そこで徐々に関係性を深めることもできますね。

そうです。

それと、品物を売る人、購入する人という役割があると、人と向き合いやすいと思います。

商品や店の雰囲気を求めてやってくる人と障がい者が、接客という役割で向き合える場所を福祉事業の一環として進めることは、これからの方向だと思います。

日本のこれからの人口動向を考えたら、高齢者や障がい者も「働き手」の一員となり、「福祉」が地域を支える側に回る時代となるでしょう。

北欧ではすでにそのようなスタンスでの取り組みが始まっています。

三浦先生
三浦先生

川幡
川幡

早いスピードで高齢化が進んだ北欧では、高齢者も障がい者も働き手として位置づけられているんですか。

将来、日本の優位性が薄れ、外国人の労働ばかり頼りにはできない時期がやってくるのかもしれませんね。

 

最後に

川幡
川幡

今日は「ヨリドコ大正るつぼん」で、

障がい者や高齢者が働くことの意味、障がい者や高齢者はもちろん、地域の人にとっても居心地のいい空間にするには、人と人との向き合い方が重要であり、商いの場がそれを手助けしてくるのだな、ということがわかりました。

三浦 研(京都大学工学部教授)

京都大学に着任される前は大阪公立大学で教鞭をとられていました、大正にある「三泉商店街」では学生らとともに商店街再生イベント「のきさきあるこ」に携わっておられます。直近の令和4年8月のイベントでは、認知症の方々を支援するN P Oの出店のサポートもされました。研究だけでなく実践による高齢者のための住まいまちづくりを進めておられ、大正にも大変馴染みのある先生です。

 

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