INTERVIEW:⼤阪公⽴⼤学教授 徳尾野先⽣DIYから生まれる『地域の⼈が集う⾵景が⽇常化する開かれた空間』
ヨリドコ大正るつぼん ヨリドコ大正メイキン 僕らが考える福祉 空き家活用
2023.4.5
今回は、⼤阪公⽴⼤学⼯学部教授の徳尾野先⽣にお話をうかがいました。
大正るつぼんの隣に建つ「ヨリドコ⼤正メイキン」では、2階の1室を建築計画研究室の有志がDIYをして内装を完成させてくださいました。
聞き手/文
WeCompass 川幡祐子
連載新しい福祉施設 ヨリドコ大正るつぼん
- 第1回
古い長屋を再生して多様な⼈々が⾏き交う心の拠り所に。新しい福祉施設「ヨリドコ大正るつぼん」
- 第2回
オルガワークスだからできる福祉。漠然とした不安を深刻になる前にサポートする拠り所
- 第3回
福祉×アート×小商いが交わる空間づくり。築70年双子長屋の全面耐震リノベーション。
- 第4回
ヨリドコ大正るつぼんに出店!真のインクルージョンが込められたヴィーガン+グルテンフリースイーツ
- 第5回
デザイン性や生業を極めて、誰もが訪れたくなる「垣根をなくした人と人が出会える場所」へ
- 第6回
DIYから生まれる『地域の⼈が集う⾵景が⽇常化する開かれた空間』
- 第7回
地域の人が助け合い、寄り添える場所に。人と人を「つなげるサポート」
- 第8回
好きを仕事に。『自信を持ってお勧めする美味しい野菜で地域とつながる』おばんざいカフェ
- 第9回
今までSOSを発信できなかった人が発信できる場所。アウトリーチの最前線になることを期待。
学生が活躍するDIYで地域を活性化
今⽇は、先生の建築計画研究室で⾏うDIYの取り組みや、地域に開かれた空間づくりについてのお話をお伺いできればと思います。
障害者や⾼齢者が働きやすい環境を作るには、住まいの確保も重要です。 3年ほど前に行った、⼤阪府和泉市にある市営住宅でのDIYの取り組みについてお話しましょう。 その団地は、エレベーターがない中層住宅で、4〜5階部分の空きが⽬⽴つので、その1住⼾のDIYをして⼊居促進を図りたいと、研究室に依頼がありました。 学⽣が、予算50万円で3DKの部屋のリノベーション設計を⾏い、⾃ら施⼯をするというものでした。
50万円とはかなり安いですね!
DIYの内容としては、 天井と壁の⼀部を塗装し、ダイニングキッチンと和室を⼀体化したリビングに床を貼り、2つの個室も改修し、さらに家具を設計施⼯するというものでした。 50万円という厳しい予算のなか、和泉市では若い担当職員が学生と⼀緒に材料をホームセンターに調達しに⾏ったり、頑張ってフォローしてくれていました。
⼤阪市営住宅でも同じようにエレベーターのない建物の4〜5階は空きが⽬⽴つと聞きます。
これからは行政だけではなく、居住⽀援法⼈が市営住宅を借り上げてリノベーションをして、住宅確保に困窮する⼈のために貸し出す、という可能性もありますよね。
はい、そうですね。 居住⽀援法⼈のお話で言うと、私どもの研究室では、居住場所に困った⼈たちを⽀援する団体や不動産事業者に着目し、⻄成区にある社会的不動産事業者を4社調査しました。 ホームレスなども含めて困った⼈のための住宅斡旋に加えて、⽣活相談やその後のフォローアップなどのソフトサービスも⾏うことが理想ですが、4社それぞれの居住サービス内容には違いがあり、ビジネスとして成⽴するよう様々な⼯夫をしているのがわかりました。
確かに、住む場所もなく困っている⼈のために、まずは住宅斡旋するだけでも⼗分意味がありますね。
そこからソフトサービスをどう提供できるかというのは採算性も合わせて考えるとかなり⼯夫がいるのですね。
空き家再生が繋げる開かれた地域づくり
先生が研究されている地域に開かれた空間についても、ご存知の事例をお聞かせいただけますか?
農福連携を積極的に推進している滋賀県で、 就労継続⽀援B型事業所の利⽤者が、ある過疎地の耕作放棄地を耕す姿を住⺠に⾒せたことで、徐々に受け⼊れられるようになった例があります。 地域に閉じた施設の中だけで障害者が活動するのではなく、地域の⼈にも⾒える形で働きながら、農業を覚えるようになる姿に、地域住民も刺激を受け「それならうちの⼟地もぜひ耕して欲しい!」となったそうです。 ⾔い換えれば、障害者の⽅がサービスを受けているだけではなく、まちづくりに貢献した例と⾔えます。
それは「⼤正るつぼん」でも⽬指すところです。
地域の⼈がこの建物に訪れたくなるような、開かれた場にしていきたいと考えています。
「DIYと空き家再⽣」が地域づくりに広がる事例もあります。 和歌⼭県海南市冷⽔浦(しみずうら)にある、今では海岸線は埋め⽴てられ、7割程が空き家の⼩さな元漁村集落で、⾯⽩い取り組みをしている大工さんがいます。 DIYというよりセルフリノベーションをする方で、建築家でかつ事業者です。 ネットで偶然⾒つけた空き家を購入して住み始めたらしいのですが、地域住民と挨拶を交わしたり、市営プールの監視員で働くなかで、ある⽇、毎⽇挨拶するおじいさんが2⽇続けて見かけないことがあり、⼼配になって家を訪ねたところ、倒れているのを発見し救急⾞を呼んで事なきを得た、ということがあったそうです。 そんな積み重ねで信頼を徐々に得て、村の⼈から「船を使ってくれ」「ただでいいから家を使ってくれ」と⾔われるようになり、今では、賃貸を含めて7〜8軒の空き家を所有あるいは賃借しているそうです。
セルフリノベーションのスタイルも、 地域で出た廃材や⾝近なものを使ったり、タッパーでセメントや⾻材を混ぜた⼿作りモルタルを⾜元に敷き詰めたりして、とてもユニークでデザインセンスのあるかっこいい空間を作り出しています。 弟⼦⼊りした若⼿を雇⽤し育てながら、空き家をリノベーションし、事業を進めているそうです。
先生のところの学生も関わっているのですか?
はい、手伝いに行ってますよ。 それを⾒ると、これからは大工の力が重要な時代になると思います。 地域の空き家再⽣には、⼤⼯的な技術⼒と事業の推進⼒を併せ持つ⼈がいるとより効果的です。 ちょっとした家の修理ができることで地域の⼈と繋がれますし、大工さんたちが⾏う事業を⾒た地域の⼈々が 「ちょっと⾃分もゲストハウスをやってみようかな」と考えて、地域の再⽣に広がっていくのでは?と思います。
最後に
「ヨリドコ⼤正メイキン」では、
研究室の⼤学院⽣らのグループで2階の1室をDIYで作っていただき、⼤変お世話になりました。
⼟壁を使ったお部屋は、気に入ってくださる方も多いみたいで、今もデザイナーさんに使っていただいています。
最後に、「⼤正るつぼん」に期待することをお聞かせいただけますか?
地域の⼈々が出⼊りする⾵景が⽇常化する空間になってほしいですね。 今回DIYを⼿伝いますが、DIYは、⾔語を交わさなくても⼀緒にやることで連帯感が⽣まれます。 そのことが少しでも、後々の「大正るつぼん」の場づくりに役⽴つといいと考えています。
徳尾野 徹教授(⼤阪公⽴⼤学⼯学部建築学科 建築計画研究室)
徳尾野先生が教授に就任される以前にも、大正るつぼんの隣に建つ「ヨリドコ大正メイキン」では、2階の1室を建築計画研究室の有志がDIYをして内装を完成させてくださいました。
この研究室では代々、研究の一環としてDIYに取り組んでおられます。
連載新しい福祉施設 ヨリドコ大正るつぼん
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- 第1回
古い長屋を再生して多様な⼈々が⾏き交う心の拠り所に。新しい福祉施設「ヨリドコ大正るつぼん」
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