INTERVIEW:野村恭代教授(大阪公立大学)今までSOSを発信できなかった人が発信できる場所。アウトリーチの最前線になることを期待。
ヨリドコ大正るつぼん ヨリドコ大正メイキン 僕らが考える福祉 就労支援B型事業所
2023.5.12
今回は、大阪公立大学大学院 現代システム科学研究科 教授の野村先生にお話をうかがいました。
居住福祉、地域社会学がご専門で、特に福祉施設が地域でもたらす対立や摩擦について研究されています。
地域との軋轢を超え地域に調和する施設となるためにどのようなことを心がけたらいいかという、まさに現実問題として常に施設が抱える課題の解決に向けた実践的な研究をされています。
聞き手/文
WeCompass 川幡祐子
連載新しい福祉施設 ヨリドコ大正るつぼん
- 第1回
古い長屋を再生して多様な⼈々が⾏き交う心の拠り所に。新しい福祉施設「ヨリドコ大正るつぼん」
- 第2回
オルガワークスだからできる福祉。漠然とした不安を深刻になる前にサポートする拠り所
- 第3回
福祉×アート×小商いが交わる空間づくり。築70年双子長屋の全面耐震リノベーション。
- 第4回
ヨリドコ大正るつぼんに出店!真のインクルージョンが込められたヴィーガン+グルテンフリースイーツ
- 第5回
デザイン性や生業を極めて、誰もが訪れたくなる「垣根をなくした人と人が出会える場所」へ
- 第6回
DIYから生まれる『地域の⼈が集う⾵景が⽇常化する開かれた空間』
- 第7回
地域の人が助け合い、寄り添える場所に。人と人を「つなげるサポート」
- 第8回
好きを仕事に。『自信を持ってお勧めする美味しい野菜で地域とつながる』おばんざいカフェ
- 第9回
今までSOSを発信できなかった人が発信できる場所。アウトリーチの最前線になることを期待。
課題を共有できる「総合相談のつながる場」
いよいよ4月末にグランドオープン予定で、オーナーであるオルガワークスさんではテナントを募集されている最中です。
テナント募集にあたって、何かアドバイスがあれば教えてください。
※取材は令和5年1月中旬
1階には就労支援B型事業所が入居する予定と聞いていますが、今後、提供するものが異なる他の事業者が複数入っても面白いですよね。 そういう例は全国にまだありません。 障がいを持つ方は複数の障害を抱えている場合が多いので、複数の事業所が同じ建物に入ることで、相互に課題を共有することが出来るので解決の糸口が見つかる可能性もあります。
就労支援の事業者を募集する場合は、近くの福祉法人や事業者がいいのでしょうか?
また、大きな福祉法人が別の場所で事業所を開設するという可能性はあるのでしょうか?
大阪公立大学の図書館にあるカフェレストランは、社会福祉法人に運営を依頼していますが、採択された事業者は阪南市が法人本部で、決して近いとは言えませんが問題なくやっています。 また、大きな福祉法人が別の場所で事業所を開設する例もあります。
公募の際のアピールポイントを、「居住、福祉、心理、食品を専門とする先生方が、運営面やメニュー開発のバックアップをしますよ!」としました。 「大正るつぼん」でも、オーナーの小川さんや細川さんが、服飾やフードに関するショップ経営や商品開発をされているので、テナントに入る方に「アドバイスが必要ならしますよ!」と、事業者側がメリットに感じることは、一つの特典になるのではないでしょうか?
小川さん、細川さんのご意向もありますが、そのアイデアをお伝えしておきます。
「大正るつぼん」の1階は店舗を中心としたテナントを、2階は福祉・医療系などの事務所が入ることを想定しています。
東側にある神社の樹木が見えてとても気持ちの良い空間になった2階には、テナントの方が使える共同キッチン付きのリビングダイニングがあって、月に1回程度、地域のお困りごとを話し合い、どのように解決すればいいか、どこに繋げばいいかを話し合う予定です。
地域の方々にも参加していただきたいので、大阪市コミュニティ協会にご紹介いただいた自治会長さんなどにご挨拶し、この建物のコンセプトをお話ししたと聞いています。
行政も参加した方がいいですね、住吉区での事例もありますし、私も同行させてもらって、まずは区長に話をしてみるのもいいと思います。
野村先生が提唱される総合相談拠点をここでやりたいと思っているので、その準備段階から関わっていただきたいです。
それに先立って、キックオフイベントとして総合相談拠点を実践しておられる全国の先進事例の関係者に来てもらい、どういった内容なのかをお伝えするシンポジウムもぜひ開催したいと思います。
その際には、野村先生に総合司会をお願いしたいと思います。
「引きこもりたい人は引きこもっておいたらいい。それが主体性の尊重だ」と言う人もいますが、これは当事者の実態をわかっていってるのか疑問です。 一般的に、親はその子より先に亡くなるのですから、今、困ってなくても将来確実に困ります。 いよいよ困った時に手を差し伸べるのは事後対応型の福祉で、従来の福祉と何も変わらないし根本的な問題の解決にはなりません。
そういう人たちがSOSを発信できる機会を担保しておく必要があると思います。 行政や社会福祉協議会はいつでもどうぞ、となっていますがそこは結果として閉ざされた場で、引きこもりの人たちはなかなかそこにSOSを発信できない現状があります。 しかし、「大正るつぼん」のような取り組みがあれば、繋がることができるという人が必ずいるはずです。 今まではSOSを発信できなかった人が発信できる場が生まれ、そこを起点にして、行政や地域住民の気づきから、こちらからアプローチできるアウトリーチ※の最前線になるのではないかな、と期待しています。
※福祉分野におけるアウトリーチとは、「支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセス」のことを言う。
「ヨリドコ大正るつぼん」を拠点としたこれからの新しい地域作り
「大正るつぼん」が今後、地域で愛される施設となるためのアドバイスをいただけますでしょうか?
※「コンフリクト」とは、違う方向性の目標を追求する二者以上の間に生じる対立、葛藤、摩擦、紛争などの概念のことで、施設建設時のコンフリクトを「施設コンフリクト」と定義する。
△ 野村先生の著書「施設コンフリクト 対立から合意形成のマネジメント」
本書は全国の施設コンフリクト事例を丁寧に分析し、合意形成までのポイントや具体的なマネジメント手法を提案しながら施設コンフリクトの解決への道筋を示す。
その外観を見たときに、住民の中には自分たちが住んでいる地域に、自分たちとは関係のない『いかにも福祉』という建物ができること違和感として受け取る人がいます。 ですが「大正るつぼん」は、長屋のテイストを残しながらリノベーションした建物ですので、まず見た目の違和感がないので、地域に溶け込みやすいと思います。 次に、施設で障がい者が働くということを知った人の中には、「障がい者は出て行け」「障がい者がここで活動する必要はない」と言う人が出てくるかもしれませんが、これは説得しても無駄なんです。
地域の中で私たちがやっている総合相談活動の中で、当初は偏見を持っていたり、他人事だった方が、実際に関わる中で「自分たちが考えないといけないテーマ」として捉え、段々と変わっていく例をいくつも見てきました。 そこをうまく専門職が促していくことが、合意形成への道です。
それはぜひとも専門職の方のお力をお借りしたいです。
大人同士だからと説得を試みようとしそうですが、そもそも育ってきた環境や置かれた立場が違うので、簡単には説得できないということですね。
最初から施設建設の話をするのではなく、関係性を作って、私の背景も信頼してもらえるようにしています。
私たちの総合相談活動の目的は、個を支える地域を作ることにあります。 「大正るつぼん」を中心に地域が作られていくことが最終ゴールだと思います、その過程にはいろんな住民の方がいると思いますが、まずは担い手としてこちらに入ってもらう。 そうすると、具体的な困りごとが上がってくるのです。
専門職の人は「障害があるから声を上げるんですよ」と説明しがちですが、それでは意味がないので、私はこのような場合、直接尋ねます。
私:「なぜその方は大声を上げているんですかね。なぜだと思いますか?」 苦情主:「なんでかわからんよ」 私:「私だったら、イライラした時や我慢できない時に大声を上げますが、どうですか?どんな時に声を上げますか?」 苦情主:「それは、腹が立った時とかだな」 私:「そうするとずっと大声をあげている方は、何かに不安だったりイライラしていたりするんですかね?」 苦情主:「あ〜そうかもしれん」
苦情を言ってる人を否定するのではなく、それも認めながら他者への理解を深めていきます。
「大声を出す人の音がしなくなった。」と言うので、「良かったじゃないですか」と言ってみたところ、「心配だから見に行く」と苦情主を含め参加する住民が言うようになり、家に行ってチャイムを押しても返答がない、ポストにはチラシなどが溜まっている。 「家の中で倒れているんじゃないか?」と騒然、そこは専門職も入っているので、状況を追跡して結局入院しているということがわかりました。 それを聞いた苦情主や住民は「これから音がしなくなるわ。帰ってこなくていいわ。」ではなく、「倒れてなくて良かった。病院だったら治ったらまた帰ってくるね」という感想になったのです。 半年かけて、そういう考え方に変わりました。
そのような拠点になるのが「大正るつぼん」だと思っています。
本日はありがとうございました。
インタビューを終えて
野村先生は大学の教員になる前に、勤務していた福祉施設で「施設コンフリクト」に直面されたということです。
研究と実践の両方で活動しながら、福祉的な課題をできるだけ地域で解決するために地域の人々のネットワークをどのように構築していけばいいのかを、実際の場所に入り、仕組みづくりをサポートされています。
現場の最前線に入り、当事者や住民と顔を突き合わせて話す中で、リアルな解決策を探っている姿に感動しました。
これからも「ヨリドコ大正るつぼん」の総合相談に関わっていただけるということなので、改めて心強く感じました。
『野村研究室 Webサイト』や、野村先生の「施設コンフリクト」の研究を取り上げたニュースの詳細はコチラです。
連載新しい福祉施設 ヨリドコ大正るつぼん
- 第1回
古い長屋を再生して多様な⼈々が⾏き交う心の拠り所に。新しい福祉施設「ヨリドコ大正るつぼん」
- 第2回
オルガワークスだからできる福祉。漠然とした不安を深刻になる前にサポートする拠り所
- 第3回
福祉×アート×小商いが交わる空間づくり。築70年双子長屋の全面耐震リノベーション。
- 第4回
ヨリドコ大正るつぼんに出店!真のインクルージョンが込められたヴィーガン+グルテンフリースイーツ
- 第5回
デザイン性や生業を極めて、誰もが訪れたくなる「垣根をなくした人と人が出会える場所」へ
- 第6回
DIYから生まれる『地域の⼈が集う⾵景が⽇常化する開かれた空間』
- 第7回
地域の人が助け合い、寄り添える場所に。人と人を「つなげるサポート」
- 第8回
好きを仕事に。『自信を持ってお勧めする美味しい野菜で地域とつながる』おばんざいカフェ
- 第9回
今までSOSを発信できなかった人が発信できる場所。アウトリーチの最前線になることを期待。