INTERVIEW:ナンクルナイサァーケアネットさんヨリドコ大正るつぼんに出店!真のインクルージョンが込められたヴィーガン+グルテンフリースイーツ
ヨリドコ大正るつぼん ヨリドコ大正メイキン 僕らが考える福祉 空き家活用
2023.2.13
今回は、「大正るつぼん」に真っ先に入居を決められた有限会社ナンクルナイサァーケアネットさんにお話を聞きました。
有限会社ナンクルナイサァーケアネットさんは、高齢者、障がい者、障がい児向けの相談業務、訪問介護、重度障がい者に特化したデイサービスなどを行っている会社です。西成区、西淀川区、住之江区、大正区において、事業所を運営されています。
聞き手/文
WeCompass 川幡祐子
連載新しい福祉施設 ヨリドコ大正るつぼん
- 第1回
古い長屋を再生して多様な⼈々が⾏き交う心の拠り所に。新しい福祉施設「ヨリドコ大正るつぼん」
- 第2回
オルガワークスだからできる福祉。漠然とした不安を深刻になる前にサポートする拠り所
- 第3回
福祉×アート×小商いが交わる空間づくり。築70年双子長屋の全面耐震リノベーション。
- 第4回
ヨリドコ大正るつぼんに出店!真のインクルージョンが込められたヴィーガン+グルテンフリースイーツ
- 第5回
デザイン性や生業を極めて、誰もが訪れたくなる「垣根をなくした人と人が出会える場所」へ
- 第6回
DIYから生まれる『地域の⼈が集う⾵景が⽇常化する開かれた空間』
- 第7回
地域の人が助け合い、寄り添える場所に。人と人を「つなげるサポート」
- 第8回
好きを仕事に。『自信を持ってお勧めする美味しい野菜で地域とつながる』おばんざいカフェ
- 第9回
今までSOSを発信できなかった人が発信できる場所。アウトリーチの最前線になることを期待。
小さな1室から始まった事業
介護事業を始めたきっかけはなんですか?
こどもが三人いるんですが、あるときから働きに出たいと思うようになり、どんな仕事がいいか考えたとき、私のおばあちゃんのヘルパーさんの入浴時のお手伝いをしたことがあったので、介護職を思いつきました。 やりがいのあるこれから必要になる仕事だと思ったのですが、こどもがいる不安があったので、亮二さんに相談したところ、サポートするよと賛成してもらい、働き始めました。
そうだったんですね。
まずヘルパーとして働いた後、ケアマネージャーの資格を取ると給与も上がり、完全男女平等の魅力的な仕事でした。 あるとき、事業所に出入りする業者に「由香さん、独立したらどう?」と言われその気になったんですが、自分の親に相談してみると、「会社なんてできるわけがない」と言われてしまい、それでもこの時も亮二さんが協力するから!と背中を押してくれたんです。
始めたのは西成にある8.6畳の自宅の1室からでしたが、こどもたちがまだ小さかったので、自宅で仕事をするのは何かと便利でした。 その流れで、会社の拠点も西成になったんですよ。
なるほど。
亮二さんの協力もあって、こどもを育てながら介護事業を大きくされてきたわけなんですね。
今年の11月で18年目を迎えるということですが、その間に転機となるような出来事はありましたか?
はい、ある登録ヘルパーに訴えられたことです。 その人は労働組合に駆け込み、2ヶ月ほどの間、近隣住民にビラを撒いていました。 全く予想もしない出来事で、労働基準監督署の調査にも応じなければいけませんでした。 その人は突然職場放棄をした人で、多くは言いがかりであり、こちらとしても全く非がないとは言いませんが、示談に応じるつもりはなく裁判で争う構えでしたが、結局出廷の日に現れず、あっけない幕引きでした。
ただ、そのときに私自身も、社員の職場環境に目を向けられていない反省点があったと感じたので、そこからは給与の改定、資格取得のためのサポートや、休みを取りやすく配慮したルール作りなど、風通しよく働きやすい職場になるように努力しました。
亮二さんはどうですか?
私が思う転機は、重度障がい者のデイサービス事業を始めたことですね。 「くくる」を2013年に開設した当時、西成にはこのような施設はなく、会社を知ってもらうきっかけにもなっていきました。
一緒に仕事がしたい!その想いから生まれるヴィーガンスイーツ
「大正るつぼん」に参画することを決められたきっかけはなんですか?
西村さん(WeCompassメンバー)に重度障がい者デイサービス用の物件として、ヨリドコ大正メイキン※を紹介してもらって、見学に行ったことがきっかけでした。 物件の内装やコンセプトは素晴らしいものでしたが、デイサービス用として考えたときに、段差がありバリアフリーではなく、車椅子やストレッチャーなどを動かすためのスペースが不十分で、ここでやるのは難しいなと思いました。
※ヨリドコ大正メイキンは、2017年に長屋を再生したシェアアトリエ+個室アトリエで、大正るつぼんの隣に建っています。都市住宅学会賞受賞。
なるほど。
物件の中だけを見た時は、直感的にそう思いました。 でも、小川さんや細川さん(大正るつぼんオーナー)のお話を聞くうちに、「この方達と一緒にやってみたい!」という気持ちが強くなっていき、そこから、自分達が新しく手掛けたい事業はなんだろう?と考えるようになって、思いついたのが、障がい者の方の就労支援事業でした。
自社のデイサービスでの配食事業を囲い込みで展開する方法も考えましたが、どうもワクワクしなかったんです。 利用者の工賃も上げることができて、やりがいのある施設とは?と考えたとき思いついたのが、ヴィーガンのスイーツだったんです。 私自身が本格的なファスティングをやっている中で、近隣にお店がないことや、あったとしても値段が高くて食いしん坊の私としては満腹感が得られないと感じていたことがきっかけでした。
※ヴィーガンは卵や乳製品を含む、動物性食品をいっさい口にしない「完全菜食主義者」のこと。
引用:UNICEF
日本では「ヴィーガン」という言葉はまだまだ馴染みがないかもしれません。 欧米では、ヴィーガンスイーツとわかりやすい表示マークのついた商品は、街中どこに行っても売っています。 さらに、SDGs への取り組みも、すでに広く浸透していて、日本でも最近広まりつつある紙ストローは、5年程前に留学していたカナダでは、既に使用されていました。 世界的にも求められるようになってきている、SDGsという観点からも「ヴィーガン」を含むオーガニック食品へのニーズがこれから高まるだろうと考えました。
試行錯誤を繰り返し、ちゃんと美味しいヴィーガンスイーツに
試作品をいただきましたが、素材の味が感じられ、甘さも控えめでとても美味しかったです。
特に胡麻が入ったものが気に入りました。
ありがとうございます! ちょうどいい甘みの量にたどりつくだけでも難しくて、試作は休みの日だけなんて悠長なことは言わず早朝5時半ぐらいから、スイーツを完成させるまで試行錯誤を繰り返しているんですよ。 フードアドバイザーにも来てもらっていますが、レシピまで全て提供してもらうのは気が引けますし、従業員に教えるときや、今後自社でさらにメニューの増産やレシピ変更のときに、自分のものになってないといけないと思い、基本は自分でレシピの資料を元にいろいろ試しているんです。
食材のフードロスやプラスティック削減にも取り組む予定で、「ヴィーガンやグルテンフリーのスイーツは、体にはいいかもしれないけど味がいまひとつ」と思われるのも嫌なので、ちゃんと美味しいものを作ろうと考えています。
なるほど。
「大正るつぼん」の1階でスイーツの製造、2階では他の軽作業がくるわけですね。
はい。
「ろくえもん」で製造した焼き菓子を「アトミヨソワカ」で販売します。
きちんと作って美味しいものが、誰によって作られたものかをわざわざ言うこと自体が不自然だと思うので、障がい者が作ったということは前面には出しません。
それが真の意味のインクルージョンだと思うからです。
介護の仕事は、長年にわたる肉体の酷使で背中や腰を痛めてしまって、続けることができなくなる場合も少なくありません。 今まで介護に携わってきてくれた職員を、指導員として配置することで、これからもずっと仕事を続けていけるという選択肢のある職場を目指したいと思っています。
そういう人への配慮もあるんですね。
名前に込められた想い。
今、由香さんのお話の中に、焼き菓子の製造をする場所が「ろくえもん」、販売をするショップが「アトミヨソワカ」というお名前が出ましたが、どんな由来がありますか?
「ろくえもん」は活動の場となる、大正区泉尾に関係しているんです。
泉尾は、江戸時代に「北村六右衛門」という人が何もないところを新田として人が住めるように開拓していった場所だそうです。
そこで私たちもこの地に根を張り地域の人々に愛される場所にしたいと考え、恐れ多いですが、その尊敬すべき先人にあやかった名前にしました。
「アトミヨソワカ」は、日本を代表する小説家である幸田露伴が「掃除が終わってもこの呪文を唱えて、もう一度その場所を見直せ」と娘さんに伝えた呪文なんです。 私たちは、この言葉に自分たちのやった仕事をきちんと見直して次に進んでいこうという意味を込めました。
ヴィーガン+グルテンフリースイーツの製造と販売は、自分たちにとって新しい取り組みで、期待と不安が入り混じりながらも、日々研究を重ねていいものを作ろうと進めています。
そして、いつかあとを振り返ったときに、ちゃんと価値のあるものになっているように、と願いを込めた言葉でもあるんですよ。
なるほど。とても深い意味が込められていますね。
他に何か施設の役割はありますか?
1階では、障がい者や高齢者だけでなく福祉的な相談も受けられる相談窓口を設置します。
自分達だけでは対応が難しいので、外の事業者さんに紹介するなど、連携体制を作っていきたいと考えています。
最後に
由香さんは、インタビュー中も職員を気にかけていて、声をかけたり、見に行ったりしていました。
日々の介護事業の忙しさの中でも、次の新しいビジネスにチャレンジする姿はかっこいいなと感じました。
見せてもらった、スイーツを紹介するおしゃれなパンフレットには「ちゃんと美味しい」と書かれていました。
有限会社ナンクルナイサァーケアネット
有限会社ナンクルナイサァーケアネットさんは、高齢者、障がい者、障がい児向けの相談業務、訪問介護、重度障がい者に特化したデイサービスなどを行っている会社です。西成区、西淀川区、住之江区、大正区において、事業所を運営されています。
連載新しい福祉施設 ヨリドコ大正るつぼん
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